デジタルマーケティングのプロセスと全体像
テクノロジーの進化に伴いデジタルマーケティング領域は広がり続けています。次々と新しい手法や考え方が生まれるデジタルマーケティングの中で全てを把握することは難しい状況ですが、デジタルマーケティングに取り組むにあたって全体像と流れを抑えることが重要だと思います。
デジタルマーケティングは新しいマーケティング手法ではなく、マーケティングのデジタル化であり、基本的な流れは従来のマーケティングと大きく変わりません。そこでデジタルマーケティングの全体像を掴めるよう、マーケティングの基本的なプロセスを踏まえ、デジタルマーケティングのプロセスとプロセス毎に使用したいフレームワークや手法をまとめてみました。
1. リサーチ
まず最初のステップはリサーチです。戦略や施策を立案するために自社やブランドの現状を把握するための調査を欠かすことはできません。既に十分なデータが社内にある場合は、このステップを飛ばしても問題ありません。マーケティングリサーチや環境分析と呼ばれることもあるリサーチには様々な手法がありますが、一般的に使われることが多いフレームワークが3C分析とSWOT分析です。
1.1 3C分析
Customer : 消費者
Competitor : 競合
Company : 自社
消費者、競合、自社の頭文字をとって3C分析と呼ばれています。製品や企業に対して消費者が求めているもの、競合が得意としていること、自社が得意としていることを明確にします。3C分析のポイントは「消費者が求めているが競合は得意としていない、自社が得意なこと」を見つけることです。
1.2 SWOT分析
Strengths : 強み
Weaknesses : 弱み
Opportunities : 機会
Threats : 脅威
SWOT分析は製品や企業の内的要因となる「強み」と「弱み」、外的要因となる「機会」と「脅威」の4つのカテゴリーを明確にしていく手法です。
リサーチで抑えたいポイントはマクロとミクロの両方の視点から分析することです。上記で紹介したフレームワーク以外でもマクロ視点の分析手法としてPEST分析、ミクロ視点の分析手法としてGCS分析やファイブフォース分析などがあります。複数の分析手法を組み合わせて、様々な視点から現状を把握していきましょう。
1.3. 自社で行うか外部委託するか
リサーチはコンサルティング会社などに依頼して実施することも可能ですが、簡単なリサーチであればインターネット上で公開されている調査データやセルフ式のアンケート調査を活用して自社で安価に行うこともできます。また、自社で行う場合は1人で行わず、ワークショップなどを通じて複数人で取り組むことで客観性を持たせることができます。
2. 戦略立案
リサーチによって現状を把握することができたら戦略を立てていきましょう。すぐに施策を考えることもできますが、数あるデジタルマーケティング手法の中から適切な手法を選択し、持っている資源を有効活用して最大限の効果を出すためにも戦略を持つことが大切です。デジタルマーケティングでは目的と2つの戦略を立案することをおすすめします。
2.1. 目的定義
まずは戦略を立案するにあたって最も重要な目的を定義していきましょう。目的は「売上を増加させる」ではなく、「今年度の売上を1億円増加させるために新規購入者を1万人増やす」くらいまで明確になっていることが好ましいです。目的定義で使いたいフレームワークはSMARTです。
Specific:具体的である
Measurable:測定可能である
Achievable:達成可能である
Relevant:上位目的との関連がある
Time Bound:期限がある
上記5つの内容が含まれた目的が良い目的とされています。
2.2. マーケティング戦略
続いて1つ目の戦略となるマーケティング全体の方向性を決めるマーケティング戦略を立案します。マーケティング戦略は一般的に使われることが多いフレームワークのSTPを使用します。
2.2.1. STP定義
Segmentation(セグメンテーション) : 市場の細分化
Targeting(ターゲティング) : ターゲット市場の決定
Positioning(ポジショニング) : ターゲット市場における自社のポジションを明確化
STPは3ステップで行います。まずは自社やブランドの市場を年齢性別等のデモグラフィック変数など、様々な変数を利用して細分化していきます。続いて細分化した市場の中から目的に合わせてターゲットとなる市場を選択します。最後に消費者から認識されたい、ターゲット市場の中で優位性を持つ自社やブランドのポジションを明確にします。
2.3. コミュニケーション戦略
2つ目は施策の方向性を決めるコミュニケーション戦略を立案します。従来のマーケティングではSTPを定義した後、4P(Product : 製品、Price : 価格、Place : 流通、Promotion : プロモーション)を定義することが一般的です。しかし現時点でデジタルマーケティングはプロモーションを中心とするコミュニケーションの手段として利用されることが多いため、施策の選択をするためにコミュニケーション戦略の立案が必要になります。
コミュニケーション戦略で重要な点はターゲットユーザーに対して、どんなストーリーをどの接点(タッチポイント)で伝えるのかを明確にすることです。特にデジタルマーケティングではWebサイトやソーシャルメディア、デジタル広告など接点が多岐に渡るため、どの接点を利用するべきなのか戦略で定義する必要があります。
2.3.1 ストーリー
まずはターゲットユーザーに伝えたいストーリーを考えていきます。ストーリーに必要な要素はインサイトとベネフィットです。インサイトは「消費者自身も意識していない思考と行動の因果関係」、ベネフィットは「消費者が商品から得られる利益」です。インサイトとベネフィットを組み合わせてターゲットユーザーが共感し、魅力的に感じるストーリーを生み出すことが理想的です。
2.3.1. カスタマージャーニー
続いてターゲットユーザーとの接点を定義するためにカスタマージャーニーと呼ばれる手法を利用します。カスタマージャーニーとは「ターゲットユーザーの購買行動の流れを可視化すること」です。
カスタマージャーニーを作成するためには、まず認知や購入、推奨といった購買行動の段階を定義し、購買行動毎に思考と感情、行動を定義します。続いて次の段階へ態度変容するために必要なコミュニケーションと伝える接点を定義していきます。これらの情報がまとめられた図はカスタマージャーニーマップと呼ばれています。
2.4. 自社で行うか外部委託するか
マーケティング戦略やコミュニケーション戦略の立案は上記のフレームワークを使用して自社で行うこともできますが、一定のマーケティング予算が確保されている場合は、予算の配分がビジネス成長に直結するため、専門的な知識や、様々な業種での経験を持つコンサルティング会社やデジタルエージェンシーなどの広告代理店に依頼することを検討してもよいと思います。
3. 施策立案
ここまでの戦略立案を経て施策立案へと進みます。マーケティング戦略とコミュニケーション戦略に基づき、限られた予算や時間の中から目的を踏まえて決定した施策の立案を行います。
デジタルマーケティングで取り組まれやすい施策の1つとしてWebサイトがありますが、同じWebサイトでも目的によって種類やコンテンツは大きく変わってきます。コミュニケーション戦略の購買行動における、どの段階の態度変容を起こしたいのか明確にした上で、Webサイトの構成や内容、デザイン等を固めていきましょう。
参考 : 目的に合わせて選びたいWebサイトの種類とコンテンツ
3.1 複合的な施策立案
予算規模が大きい場合、1つの施策だけではなく、複数の施策を組み合わせて実施する場合があります。例えば下記のような形です。
3.1.1. 認知
STPのターゲティングで定義したターゲット市場のユーザーに対して、ディスプレイ広告やソーシャルメディア広告、リスティング広告といったデジタル広告を活用し、バナーや動画、テキストでブランド名や企業名を訴求することで認知を獲得します。
3.1.2. 興味・関心
デジタル広告からブランドサイトに誘導し、ブランドサイト内で商品の説明を行い、ターゲットユーザーに興味や関心を持ってもらいます。
3.1.3. 購入
ブランドサイトからECサイトへ誘導し、ECサイトでは初回限定クーポンを発行してトライアル購入を促します。また、ブランドサイトから離脱したユーザーに対してはリターゲティング広告で再びアプローチしてECサイトへ誘導します。
3.1.4. リピート購入
一度購入したユーザーに対してメールマガジンで期間限定商品や人気商品を訴求し、リピート購入を促します。
3.1.5. 推奨
複数回商品を購入しているユーザーに対して、ソーシャルメディアでの口コミ投稿を促すキャンペーンを行います。
あくまでも一例ですが、上記のような流れを生み出したい場合、デジタル広告、ブランドサイト、ECサイト、CRM(顧客関係管理)、メールマーケティング、ソーシャルキャンペーンなど、複数の施策を立案し、それそれの施策を連動させる必要があります。
複雑なユーザーフローにはなりますが、コミュニケーション戦略を踏まえて、カスタマージャーニーを意識した施策を立案していくことで、それぞれの施策の目的が明確になり、より効果の高い施策とすることができます。
3.2. KGI/KPI設計
施策立案時に重要なのがKGIとKPIの設定です。戦略立案時に決定した目的に基づき、KGIとKPIを設計していきます。KGI(重要目標達成指標)はKey Goal Indicatorの略でビジネスゴールを達成できているか判断するための指標です。目的定義の際に使った例からは「売上1億円増」や「新規購入者を1万人増」がKGIとなります。
一方のKPI(重要業績評価指標)はKey Performance Indicatorの略でKGIを達成するために重要となり、各プロセスの達成状況を判断するための指標です。Webサイトの訪問数、広告の表示回数やクリック数、クリック率、ECサイトの会員登録率や購入回数といった様々な指標をKPIとすることができます。
KGI/KPI設計で重要な点は定量的に計測可能な指標にすることです。さらにKPI設計ではKGIとの関連性が高いこと、施策のPDCAを回すことで改善可能な指標とすることが重要です。
3.3. 自社で行うか外部委託するか
1つの施策のみなど、簡単な施策立案であれば自社で行うこともできますが、複合的な施策の場合は様々な知見が必要になるため、予算を確保して専門的な会社に依頼することがおすすめです。
4. 施策実施
施策を立案したら実施していきましょう。施策に必要な制作物を作り公開します。
4.1. 制作
まずは施策に必要なブランドサイトやECサイト、キャンペーンサイトといったWebサイトの構築や、バナーや動画などの広告素材作成、顧客データベースやメール配信のためのシステム契約及び構築などを行います。既にWebサイトや顧客データベースなどを持っている場合は流用することや改修で対応できる場合もあります。
4.2. 公開
ここまで長いプロセスでしたが、ようやく公開することができます。Webサイトの公開やデジタル広告の出稿、メールマガジンの配信などを行っていきます。
4.3. 自社で行うか外部委託するか
小規模なWebサイト構築であれば、ツール等を活用して自社で行うこともできます。戦略立案や施策立案時に専門的な会社に依頼している場合は基本的に施策立案と実施はセットで担当します。施策実施に必要な人員やネットワークを抱えている場合が多いため、制作物の確認作業のみで進めることができる場合が多いです。
5. 効果測定・改善
施策を実施したら効果測定を行い、改善していきます。デジタルマーケティングの大きな特徴の1つがリアルタイムでデータを取得して分析できることです。1つの施策が終了するまで待つのではなく、施策実施中にユーザーの反応を確認しながら改善していきます。
効果測定時に確認したい指標は施策立案時に設計したKPIです。効果測定ツールを利用してデジタル広告配信データ、Webサイトのアクセス解析データ、顧客登録データなどから設計したKPIをトラッキングして分析します。目標値としている数値に届かないKPIがあれば、何が問題だったのかを考え、改善施策を実施する必要があります。
また、KPIのトラッキング以外にもデジタルマーケティングでは効果測定を行う手法がいくつかあります。
5.1. A/Bテスト
A/Bテストはデジタルマーケティングでよく利用される効果測定方法です。デジタル広告の場合は複数のバナーや動画を用意し、同じ条件で配信することで、どちらの広告が良かったのか判断します。Webサイトの場合は一部のコピーやデザインを変更し、比較を行うことでサイトの離脱率や登録率などを測定し良し悪しを判断します。
5.2. アンケート調査
デジタルマーケティングではアンケート調査も有効です。デジタル広告を見たユーザーと見ていないユーザー、Webサイトに訪れたユーザーと訪れていないユーザーのように施策に接触したユーザーと接触していないユーザーに対してアンケートを配信し、両ユーザーのアンケート結果の差異から施策の効果を判断するブランドリフト調査がデジタルマーケティングでは一般的になりつつあります。
これらの手法や効果測定ツールを活用し、常にデータをトラッキングして改善施策を考えることがデジタルマーケティングでは重要です。公開時から完璧を求めるのではなく、様々な手法を試しながら効果を高めていくほうが成功する確立が高まると考えています。
また、効果測定からの改善は施策毎に行うだけではなく、測定した結果を戦略まで戻すことが大事です。最初に立案したマーケティング戦略やコミュニケーション戦略が正しかったのかどうか効果測定を基に検証していきます。
5.3. 自社で行うか外部委託するか
施策実施と同様に、基本的には施策立案を担当した会社が効果測定と改善を行うべきです。自社で行う場合はA/Bテストツールやアクセス解析ツールなど、ツールを活用することがおすすめです。
ここまで大きく5つのプロセスに分けてデジタルマーケティングの全体像をまとめてみました。デジタルマーケティングは「消費者との接点が多岐にわたる」こと、「リアルタイムでデータを取得して分析することができる」ことが従来のマーケティングとの大きな違いではないかと考えています。
自社でデジタルマーケティングを実施する場合も、外部委託する場合も、デジタルマーケティングのプロセスと全体像を抑えてPDCAを回せると、より高い効果を出すことができると思います。
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