マーケターのためのマーケティング情報データベース

デジタルマーケティングの知識を発信するブログ

デジタルマーケティング戦略の立て方

公開日: 更新日: カテゴリー:

デジタルマーケティングに取り組む企業が増加している一方、2016年の富士通総研による調査では、デジタルマーケティングで成果を挙げていると答えた企業は37%と半数にも満たない状況です。

成果を挙げることが難しい理由として、デジタルマーケティングは手法や考え方が多岐に渡るため、目的を持たず、トレンドに流されて自社に適していない施策を実行してしまったり、デジタルマーケティングへの取り組みの方向性が明確になってまま施策を実行してしまい、PDCAが回せないことなどが考えられます。

上記のような状況に陥らず、デジタルマーケティングで成果を挙げるためには戦略を持つことが重要です。今回はデジタルマーケティング戦略に必要な要素と、デジタルマーケティング戦略の立て方を紹介します。


デジタルマーケティング戦略とは

そもそもデジタルマーケティング戦略とは何でしょうか。資生堂ジャパン株式会社CMO音部大輔さんの著書である『なぜ「戦略」で差がつくのか。』では、戦略を「目的達成のための資源利用の指針」と定義されています。この定義をお借りすると、デジタルマーケティング戦略は「デジタルマーケティングで成果を挙げる(目的達成する)ための、予算や人材といった資源利用の指針」となります。

デジタルマーケティングはWebサイトやEメール、ソーシャルメディア、アプリ、デジタルサイネージといった様々なデジタルメディアと、Webサイトの訪問データや広告配信データ、顧客データや第三者データなどの様々なデータ、アドテクノロジーやMAツール、分析ツールといった様々なテクノロジーを活用して施策を行っていきます。

このような多種多様のデジタルメディアやデータ、テクノロジーを限られた予算や人材などの資源の中で、どのように利用したら効果を最大化できるのかの指針を示すことがデジタルマーケティング戦略の役割となります。

デジタルマーケティング戦略の立案プロセス

それでは具体的なデジタルマーケティング戦略の立て方を紹介します。

1. 目的を明確にする

戦略の定義は「目的達成のための資源利用の指針」であり、デジタルマーケティング戦略を立てるには、まず目的を明確にすることが重要です。「売上を増加させる」のような目的をよく見かけますが、戦略を立案するためには、「今年度の売上を1億円増加させるために新規購入者を1万人増やす」くらいまで明確になっていることが好ましいです。

目的はSMARTと呼ばれるフレームワークに当てはめることで定義しやすくなります。

Specific:具体的である
Measurable:測定可能である
Achievable:達成可能である
Relevant:上位目的との関連がある
Time Bound:期限がある

SMARTでは上記5つの内容が含まれた目的が良い目的とされています。

2. STPを定義する

続いて目的を達成するために、自社はどんな市場でどのようなポジションを確立するのかを考えていきます。先ほどの目的を例とすると「新規購入者の1万人はどんな市場でどのようなポジションを確立することによって獲得できるのか」を考える必要があります。

このときに利用したいフレームワークがSTPです。STPはセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの頭文字を取って呼ばれており、下記の3ステップで行います。

Segmentation(セグメンテーション) : 市場の細分化
Targeting(ターゲティング) : ターゲット市場の決定
Positioning(ポジショニング) : ターゲット市場における自社のポジションを明確化

2.1. セグメンテーション

セグメンテーションは市場の細分化です。例えば日本で発売するアルコール飲料の場合、未成年を含む日本市場全体をターゲットにすることは倫理的にも戦略的にも好ましくありません。限られた資源を特定の市場に対して有効に投資するためにも市場を細分化する必要があります。

市場を細分化するためには下記の4種類の変数がよく利用されます。

ジオグラフィック(地理的属性) : 地域・人口密度・気候帯など
デモグラフィック(人口統計学的属性) : 年齢・性別・所得・職業など
サイコグラフィック(心理的属性) : ライフスタイル・パーソナリティなど
ビヘイビアル(行動属性) : 使用量・ロイヤルティ・オケージョンなど

例えば電気自動車の場合は下記のようなセグメンテーションが考えられます。

①自動車に乗ることができる年齢が決まっているため、年齢で分割(デモグラフィック)
②自動車の価格で購入可能者が限られるため、所得で分割(デモグラフィック)
③外でも充電する場合があるため、充電スポットが多くある地域で分割(ジオグラフィック)
④充電無しでの航続距離に限度があるため、毎日の利用距離で分割(ビヘイビアル)
⑤環境に優しい電気自動車のため、環境問題への興味で分割(サイコグラフィック)

このように細分化した各市場にはユーザーが何人いるのかも合わせてリサーチすることが好ましいです。

2.2. ターゲティング

セグメンテーションで細分化された市場の中から、目的に合わせてターゲットとなる市場を選択します。「新規購入者を1万人増やす」目的を達成するために適した市場を選択することが重要です。

1万人未満の市場を選択してしまうと確実に1万人の新規購入者を獲得することは出来ませんし、1,000万人の市場を選択してしまうと、訴求するコミュニケーション内容が曖昧になり、ユーザーに響かないことから1万人の新規購入者を獲得することが出来ないかもしれません。また、選択した市場では既に自社商品を継続的に購入しているユーザーが大半を占めている可能性も考えられます。

例えば先ほどの電気自動車の場合は「18歳〜69歳の世帯年収500万円〜800万円、人口100万人以上の都市在住で毎日の利用距離が200キロ未満の市場をターゲット市場とする」のようになります。

目的を踏まえて、見込み顧客が多く含まれ、目標数値を達成できる可能性の高い市場を選択することがターゲティングで重要なポイントです。

2.3. ポジショニング

市場を細分化して、ターゲットとなる市場を決定したら、その市場の中で自社のポジションを明確にしていきます。ターゲットとなる市場には競合商品がある可能性もあり、自社の商品を購入してもらうために優位性を持つポジションを確立する必要があります。

ポジショニングではPODとPOPと呼ばれる考え方が参考になります。

POD(差別化ポイント) : 競合ブランドよりも優れている点
POP(同質化ポイント) : 競合ブランドの強みを打ち消す点

競合ブランドより優れている点であるPODを明確にしなければならないのはもちろん、理想的なポジショニングは競合ブランドが強みとしている点を打ち消すポイントであるPOPも兼ね備えていることです。

例えば「競合ブランドよりもデザイン性に優れており、競合ブランドが強みとしている性能と同様の性能を兼ね備えている」商品があれば、ユーザーは自社の商品を選択する可能性が高いです。

3. ストーリーを立てる

現代はターゲットとなるユーザーとの接点が無数にあり、デジタルマーケティングにおいてもWebサイトやSNSなど、複数の接点でユーザーと接触します。そんな状況下でも全てのユーザーに同じ体験を届けるためにコミュニケーションの軸となるストーリーを立てる必要があります。

また、ストーリーがあることで客観的なデータを伝えるだけよりも遥かにユーザーの心を掴むことができます。


サントリー シングルモルトウイスキー山崎 – http://www.suntory.co.jp/whisky/yamazaki/story/001.html

例えばサントリーのウイスキーである山崎の場合、創業者の鳥井信治郎さんが「日本人の手で、世界に誇る日本のウイスキーをつくりたい。」という夢のもと、1923年に山崎蒸溜所の建設に着手し、角瓶など様々なウイスキーを生み出します。

その後、信治郎さんの次男である佐治敬三さんが「日本を代表するシングルモルトウイスキーをつくる」決意のもと、「スコッチとは異なる、日本のシングルモルトウイスキーはどうあるべきか」を考え、数十万樽の原酒の中から掛け合わせ、ひたすらテイスティングを重ね、2年の月日を経て「ひとつの個性が突出することなく、多彩な原酒が混ざり合い、高め合うような調和」を持ったシングルモルトウイスキーである山崎が生まれました。

このようなストーリーを聞くと、「海外で評価され人気なウイスキー」という情報だけよりも商品への興味や共感が増し、一度飲んでみたくなると思います。

3.1 ストーリーに必要な要素

ストーリーを立てる上で重要な要素が「インサイト」と「ベネフィット」です。

インサイトは「消費者自身も意識していない思考と行動の因果関係」です。例えば何故その商品を購入したのかインタビューしたときに簡単に答えられる「安い」や「お洒落」のような理由ではなく、「上質で歴史を感じられるものを常に身につけていることで、自分に自信を持つことができる」のような深い理由になります。

ベネフィットは「消費者が商品から得られる利益」で、ベネフィットには機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットがあります。機能的ベネフィットは商品の性能や価格で、情緒的ベネフィットは商品を持ったり、使ったりすることで起こる感情です。

インサイトとベネフィットを組み合わせることで、ユーザーが共感し、魅力的に感じるストーリーが生まれます。

4. カスタマージャーニーを作る

先ほども述べたようにターゲットユーザーとの接点が無数にある現代で、ユーザーと接触するために、どのようなデジタルメディアを利用するかを判断する必要があり、その際に利用できるフレームワークがカスタマージャーニーです。

カスタマージャーニーとは「ターゲットユーザーの購買行動の流れを可視化すること」です。例えば「商品を知って、興味を持ち、購入意向を持って1回購入し、気に入ったので何度も購入し、商品が好きになって友人に勧める」のような行動の流れを可視化していきます。

カスタマージャーニーは下記のステップで作成することができます。

4.1. 購買ファネルの設定

まず商品に合った適切な購買ファネルを設定することから始めます。購買ファネルで有名なモデルは1920年代にサミュエル・ローランド・ホールさんが提唱したAIDMAです。

Attention : 注意
Interest : 関心
Desire : 欲求
Memory : 記憶
Action : 行動

また、2004年に電通が提唱したAISASも有名です。

Attention : 注意
Interest : 関心
Search : 検索
Action : 購買
Share : 情報共有

最近ではAISASを更に進化したDual AISASなども生まれています。他にも購買ファネルの設定に役立つ様々なモデルがありますが、どれかを必ず適用しなくてはいけないわけではなく、自社の商品に合った購買ファネルを考えて設定することが重要です。

私は認知→興味関心→購入意向→購入→再度購入→推奨という6段階のファネルを設定することが多いです。

4.2. 各ファネル毎の思考と感情、行動の設定

続いて設定したファネル毎に、ターゲットユーザーがどのような思考と感情を抱き、その結果どのような行動を起こすのかを設定していきます。

例えば、CMで新商品を認知したターゲットユーザーが「新しい成分が配合されている洗剤に興味を持って、本当に効果があるのか気になった結果、Googleで『商品名+効果』のキーワードで検索する」などです。

4.3. 次のファネルに態度変容するために必要な刺激と接点の設定

設定した全てのファネルで思考と感情、行動を定義することが出来たら、次のファネルにユーザーを態度変容してもらうために必要な刺激(コミュニケーション内容)と接点(デジタルメディア)を設定していきます。

先ほどの例を使用すると「Googleで『商品名+効果』のキーワードで検索するユーザーに対して、洗浄力をデータで説明するWebサイトを作成し、『商品名+効果』のキーワードで広告出稿する」ことや、「数回分利用できるトライアル用の洗剤をSNSのキャンペーンで無料サンプリングする」ことで、興味を持ったユーザーを購入意向に態度変容してもらえる可能性があります。

5. 優先順位を決定する

カスタマージャーニーでは利用できるデジタルメディアの選択肢が見えましたが、全てを同時に進めていくのは予算的にも人員的にも現実的ではないため、施策を実施する際の優先順位を付けていく必要があります。

優先順位は、「緊急度」と「重要度」を軸に決定する考え方がおすすめです。例えば新商品発売を数ヶ月後に控えている場合は下記のような考え方ができます。

①商品を認知し、欲しいユーザーがすぐに購入できるECサイト制作(緊急度 : 高, 重要度 : 高)
②商品を認知してもらうための広告施策(緊急度 : 高, 重要度 : 低)
③商品を購入したユーザーに対する再購入を促すキャンペーン(緊急度 : 低, 重要度 : 高)
④顧客の情報を管理するためのCRM導入(緊急度 : 低, 重要度 : 低)

上記の施策は可能であれば全て発売時に整っている状況が好ましいですが、その中でも緊急度と重要度を考え、優先順位を付けなくては進めることができません。そのため、購入意向ユーザーを確実に購入に繋げるためのECサイトを最初に制作して機会損失を防ぐことを最優先としています。

6. 評価基準を定める

戦略は立案して終了ではなく、施策と同様に定期的に見直し、改善していく必要があります。デジタルマーケティングの大きな利点の一つがデータを取得できることであり、様々なデータを活用することで、戦略を評価することができます。

例えば、「ターゲットに設定した市場から、何人のユーザーが購入したのか」「ストーリーはどういったユーザーに響いたのか」「購入したユーザーのうち何%が再度購入したのか」などの数値は予め取得できるように設計することで、実施した施策のデータから獲得することができます。

このような評価基準がない場合、戦略だけでなく、実施したデジタルマーケティング施策の評価をすることも難しくなります。

また評価基準を定めることで、データを獲得するために必要なツールや、分析するために必要なツールなど、評価するために必要なツールの導入も「流行っているから導入する」ではなく「必要だから導入する」という判断基準で正しく検討することができます。


まとめ

上記のような流れでデジタルマーケティング戦略を立案することで下記の要素が明確になります。

①デジタルマーケティングを実施する目的
②自社のターゲット市場と市場におけるポジション
③ユーザーに伝えたいストーリー
④ターゲットユーザーの購買行動の流れと利用できるデジタルメディアの選択肢
⑤デジタルマーケティング施策の実施優先順位
⑥デジタルマーケティング戦略と施策の評価基準

このような情報があることで、限られた資源の中で、取り組まなければいけない施策の方向性と、デジタルマーケティング活動のPDCAを回すことが可能となり、成果を挙げることができるようになります。

戦略の有無でデジタルマーケティングの成果が大きく変わるため、まだお持ちでない方はぜひ作ってみてください。


デジタルマーケティング関連企業を集めています

Choicelyでは日本でデジタルマーケティング戦略立案のサービスを提供しているデジタルエージェンシーやコンサルティング会社など、デジタルマーケティング関連の業務を行っている様々な企業をまとめたデータベースを運営しています。よろしければ合わせてこちらもご覧ください。

マーケティング企業データベース

この記事をシェアする
このエントリーをはてなブックマークに追加

ABOUT CHOICELY KNOWLEDGE

デジタルマーケティングに関連する知識を発信しているブログです。

個人でデジタルマーケティングに取り組んでいる方から企業の担当者、これから学びたい方まで、デジタルマーケティングに関わる全ての人に役立つ様々な知識を届けることを目標としています。